9/21

475人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「調理器具に埋もれて起き上がれなくなるなんて、私が来なかったらどうするつもりだったんですか」 「ううん……まあ、その時は、春子ちゃんに来てもらうよ」 「うちのお母さんは面倒くさがり屋だから来ませんよ」 「え? そうなの。意外」  それは困ったな。どうしようね。なんて、のんきな声色で言うもんだから、小春は恨めしくなって、じと目をした。  山田は肩をすくめて笑った。 「大丈夫だよ。なんとか大声出して、その辺歩いてる人に助けてもらうさ」  それが困るっていうのに。とは、口に出して言わない。たまたま通りかかったのが、女の人だったら。あの手を握るのは、他の女性になってしまうわけで。どうしてそれが困るの、なんて問われたら、小春は回答に詰まる。だからせめて、不機嫌を顔面ににじませてみた。山田は相変わらずの飄々面である。 「はいこれ。ハンバーグに使って」 「……ハンバーグにニンジンを入れる気だったんですか?」 「あれ? ハンバーグってニンジン入ってなかったっけ」 「付け合わせとかでは使いますけど……」 「ああ、じゃあそれだ。それと勘違いした」 「……本当にハンバーグ好きなんですか」 「うん。大丈夫。好き好き。よろしくね」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

475人が本棚に入れています
本棚に追加