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「調理器具に埋もれて起き上がれなくなるなんて、私が来なかったらどうするつもりだったんですか」
「ううん……まあ、その時は、春子ちゃんに来てもらうよ」
「うちのお母さんは面倒くさがり屋だから来ませんよ」
「え? そうなの。意外」
それは困ったな。どうしようね。なんて、のんきな声色で言うもんだから、小春は恨めしくなって、じと目をした。
山田は肩をすくめて笑った。
「大丈夫だよ。なんとか大声出して、その辺歩いてる人に助けてもらうさ」
それが困るっていうのに。とは、口に出して言わない。たまたま通りかかったのが、女の人だったら。あの手を握るのは、他の女性になってしまうわけで。どうしてそれが困るの、なんて問われたら、小春は回答に詰まる。だからせめて、不機嫌を顔面ににじませてみた。山田は相変わらずの飄々面である。
「はいこれ。ハンバーグに使って」
「……ハンバーグにニンジンを入れる気だったんですか?」
「あれ? ハンバーグってニンジン入ってなかったっけ」
「付け合わせとかでは使いますけど……」
「ああ、じゃあそれだ。それと勘違いした」
「……本当にハンバーグ好きなんですか」
「うん。大丈夫。好き好き。よろしくね」
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