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 押し付けられたボウルを受け取って、小春は、はあい、と返事をして踵を返した。 「はあい、じゃなくて、はい」  と、お説教が背中を追ってくる。わざとに、はあい、と繰り返せば、くくっと楽しげに笑われた。  暖簾をくぐって、軋む廊下を抜ける。履いてきたサンダルをつっかけると、引き戸を引いた。夕焼けの下半分が地平線に溶け始めている。味噌汁をあっためた匂いが、風に乗って鼻に届いた。  サンダルを引きずって鼻歌を歌いながら、ボウルの中身に目を落とす。大きさのまばらな野菜に、 「ほんと、変な人だねえ」  と、笑いかけてみた。  ハンバーグ、やっぱり作り足してあげようかな。  そんなふうに思い直して、小春はスキップ混じりで帰路に着いた。
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