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「ああ、やっぱり」
B定食の蕎麦を咀嚼しながら、同僚であるすみれは呟いた。視線は蕎麦ではなく、テーブルに置いたスマートフォンに注がれている。
「何が、やっぱり?」
箸を手に取って、いただきますのポーズをしながら小春は訊いた。訊きながらも、全神経はお皿の上から匂い立つA定食の唐揚げに向いていた。
すみれは、スマートフォンの画面を見せつけてきた。
「殺されてたって。ほら、行方不明だった女の人。二十四歳の」
「二十四歳の女の人?」
唐揚げに向けていた目を、差し出されたスマートフォンへ向ける。
ニュースアプリの見出しには、〈行方不明の会社員。遺体で発見〉とあった。記事に載っている地名と、事件の詳細を読んで、ようやく、ああ、と頷く。見出しの情報だけでは、それがどんな事件だったか、正直、すぐには思い出せない。それほどまでに、昨今はこういった事件が多かった。
「二十四歳っていったらさ、私たちと同じくらいじゃん。いつ自分の身に降りかかるか分からないよね。他人事じゃないっていうか」
スマートフォンをテーブルに戻して、すみれは再び蕎麦をすすり始めた。その間も、左手は休むことなく画面を操作している。すると次は、
「あっ、アイドル熱愛発覚だって。誰だろう」
と、弾むように指をタップさせた。他人事ではないと口にはしても、結局はやはり他人事なのだろう。実際、自分もそうかもしれない。
「捕まったの?」
ふと気になって、小春は訊いた。
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