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「え?」
「犯人。捕まったって?」
興味がすでにアイドルの熱愛へ向かっていたからか、すみれは、なんのこと? と一旦訊き返してから、ああ、さっきのね、と頷いた。
「捕まったみたいだよ。遺体見つかってから、割とすぐ」
「そっか。ならよかったね」
「ねえ。どうしてさ、無職なんだろうね」
「無職? ああ、犯人? 無職だったの?」
「住所不定無職。四十五歳男」
「確かにそのフレーズよく聞くね。住所不定無職」
「でしょ? 人殺しなんてしてないで、働きなよって感じ。近所に無職がいたら気を付けようっと」
些か乱暴な配慮である気もするが、それくらいでちょうどいいのかもしれない。小春は深めに頷いて、唐揚げを齧った。
近所の無職。男――。
ぱっと頭に浮かんだのは、隣に住む山田のことだった。
無職かどうかは不明だが、山田があの風変わりな浴衣以外を着ているところを、小春はまだ目にしたことがない。たまに出かけてはいるようだが、大体の行き先は近所のコンビニかお酒の自販機だ。スーツを着て出勤、なんて、まったくもって想像がつかない。
そんな怪しげな男が、近所どころか隣に住んでいて、ましてや家を訪ねに行ったりしているなんてすみれに知れたら、さすがの彼女も顔をしかめるだろう。
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