エピローグ

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 こんにちは、と、元気に横を駆けていく子供たちに挨拶を返しながら、帰路に着く。  ようやく見慣れてきた自宅の門に辿り着いたところで、門の向こうから聞き覚えのある音がした。  不規則なリズム。跳ねるような、軽快な音。  耳にこびりついて離れない。それは、あの穏やかな幸せを運んでくる音だった。  山田は門を開いた。  石畳の上を、誰かが飛び跳ねて渡っていた。そのたびに、ヒールの音が鼓膜に響く。  動きが、ぴたりと止まった。振り向いた拍子に、栗色の髪が揺れる。腕には、見覚えのある花が抱えられていた。  ――あら、分からないわよ? 案外、生涯の恋だと覚悟を決めているかも。  お節介な上司が、記憶の中でからかうように笑う。  春の風に吹かれて、桜色のスカートがひらりと舞った。 (了)
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