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どんがら、がっしゃん!
絵に描いたような、見事な騒音だった。ハンバーグのたねを捏ねていた小春の手が、強制的に止まるほどの。
「お隣さんかしら」
写し鏡のように同じ作業をしていた母が呟く。
首を右へ傾げながらも、小春はほぼ確信して答えた。
「……多分」
「大丈夫かしら」
「見てくる」
手についた肉の脂を石鹸で洗い流すと、小春はエプロンを外してキッチンを出た。
廊下を抜けて、玄関でサンダルをつっかける。ドアを開くと、空は水色とオレンジが入り交じったような色になっていた。
きいっと甲高い音で鳴く門を出て、すぐ右へ曲がる。いろんな夕飯の匂いが鼻先をくすぐって、思わずぐうっとお腹が鳴った。
数メートル道なりに進んでいくと、黒ずんだ木製の門が見えてくる。表札を見上げると、そこにはミミズが走ったような字で、「山田」。
面倒くさそうに筆を滑らせる様子が容易く浮かんで、小春は小さく笑った。
仰々しい門をくぐると、砂利の上に並べられた不揃いな石畳が見えてくる。小春はそれを、いつものように片足ずつ跳ねて渡った。
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