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玄関に着くと、引き戸を引いた。鍵がかかっていることは滅多にない。からからから、という古くさい音に被せて、山田さん、と呼びかけてみた。応答はない。その代わりに、奥の方からガラクタを片付けているような耳障りな音が聞こえてくる。
小春はもう一度、山田さんっ、と、少し大きめに呼びかけてみた。
ようやく音が止んだ。
「その声――小春ちゃん?」
くぐもった声が、長い廊下の奥から返ってくる。
「はい。なんか、ものすごい音がうちまで聞こえましたけど、大丈夫ですか?」
「ああ、あのね。ううんと……ねえ、ごめん。ちょっと助けてくれない」
随分緊迫感のない救助要請だ。小春は、お邪魔します、と断ってから、中へ入った。
サンダルを脱いで廊下に上がると、体重の重みに合わせて木が軋む。廊下には、平成生まれではないであろう家具が、乱雑に置かれていた。せっかくの古民家風――とは言っても、正直ただ古いだけ――なのだから、もう少しインテリアにこだわればいいのに。
確かそんなふうにアドバイスした記憶もあるが、当の本人は、
「ううん。そうね。そのうち」
とかなんとか、適当に相槌を打っただけだった。せめて重厚感のある本棚に、エロ本を並べるのだけはやめてほしい。
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