4/21
475人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「山田さん? どこですか?」  一向に人の気配がしない。さすがにこの広い敷地内を、ひと部屋ひと部屋探し回る気はしなかった。 「ここ、ここ。もっと奥。お台所の、そのさらに奥」  お台所って。男の人が。  心の中でツッコミを入れながら、誘導されるがまま台所へ向かった。  台所に続く暖簾を両手で分ける。一番最初に目についたのは、まな板の上に乗せられたままの野菜だった。  珍しい。山田さんが料理とか。  山田宅の台所の奥には、四畳半ほどの収納倉庫がある。以前、何が入っているのかと訊ねてみたが、ううん、なんだっけね、と逆に訊き返された。そういう人なのだ。  どうやら山田は、その四畳半のスペースにいるようだ。中からようやく人の気配がした。 「山田さん。来ましたよ」 「ああ、ごめん。ここなの俺。ここ、ここ」  中を覗くと、なかなかの大惨事だった。鍋やらフライパンやらで、ちょっとした小さな山が完成している。  その山頂から、にょきっと人の手がはえていた。頭と体は、山に埋もれて見えない。長い脚は助かったようだが、それだけではどうしようもできなくてじたばたとしていた。  どうやら、屋根裏にでもしまっておいたダンボール箱を、ひっくり返してしまったようだ。  小春は、指を差して笑ってやった。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!