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「山田さん? どこですか?」
一向に人の気配がしない。さすがにこの広い敷地内を、ひと部屋ひと部屋探し回る気はしなかった。
「ここ、ここ。もっと奥。お台所の、そのさらに奥」
お台所って。男の人が。
心の中でツッコミを入れながら、誘導されるがまま台所へ向かった。
台所に続く暖簾を両手で分ける。一番最初に目についたのは、まな板の上に乗せられたままの野菜だった。
珍しい。山田さんが料理とか。
山田宅の台所の奥には、四畳半ほどの収納倉庫がある。以前、何が入っているのかと訊ねてみたが、ううん、なんだっけね、と逆に訊き返された。そういう人なのだ。
どうやら山田は、その四畳半のスペースにいるようだ。中からようやく人の気配がした。
「山田さん。来ましたよ」
「ああ、ごめん。ここなの俺。ここ、ここ」
中を覗くと、なかなかの大惨事だった。鍋やらフライパンやらで、ちょっとした小さな山が完成している。
その山頂から、にょきっと人の手がはえていた。頭と体は、山に埋もれて見えない。長い脚は助かったようだが、それだけではどうしようもできなくてじたばたとしていた。
どうやら、屋根裏にでもしまっておいたダンボール箱を、ひっくり返してしまったようだ。
小春は、指を差して笑ってやった。
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