475人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「あははっ、悲惨」
「笑ってないで、助けてちょうだいよ」
「ああ、はいはい」
しょうがないなあ、と嘯いてから、山からはえた手を引っこ抜く。
金属が崩れていくけたたましい音と共に、山田がようやくその全貌を見せた。ぷはっと、息と埃を吐き出した。
小春はまた指を差して笑った。
「一体、何があったんですか?」
惨状をぐるりと見回しながら、小春は訊いた。
「ん? いや、なんかさ。ふとハンバーグが食べたくなって」
山田は、毛虫のような眉を、太い指で掻いた。
「ハンバーグ?」
「うん。だけど、いざ作ろうと思ったら、鍋がないわけ」
「鍋? ハンバーグを鍋で作ろうとしたんですか?」
「え? 違うの?」
「違いますよ。だってうち、今頃ハンバーグをフライパンで焼いてますもん」
山田は沈黙した。そして、自分の右手側に転がったフライパンを手にすると、
「ああ、こっちね。惜しかった」
と、負け惜しみのように口にした。
惜しいかな。小春が首を傾げているうちに、山田は、よっこらしょ、と言いながら立ち上がった。
山田はノッポだ。ぴんと背筋を伸ばせば百八十センチはありそうだが、猫のようにまるめている背中のせいで、あまりそうは見えない。なぜいつもそこにばかりつくのかと思う寝癖が、今日も右耳付近で元気に立ちあがっていた。
最初のコメントを投稿しよう!