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「あははっ、悲惨」 「笑ってないで、助けてちょうだいよ」 「ああ、はいはい」  しょうがないなあ、と嘯いてから、山からはえた手を引っこ抜く。  金属が崩れていくけたたましい音と共に、山田がようやくその全貌を見せた。ぷはっと、息と埃を吐き出した。  小春はまた指を差して笑った。 「一体、何があったんですか?」  惨状をぐるりと見回しながら、小春は訊いた。 「ん? いや、なんかさ。ふとハンバーグが食べたくなって」  山田は、毛虫のような眉を、太い指で掻いた。 「ハンバーグ?」 「うん。だけど、いざ作ろうと思ったら、鍋がないわけ」 「鍋? ハンバーグを鍋で作ろうとしたんですか?」 「え? 違うの?」 「違いますよ。だってうち、今頃ハンバーグをフライパンで焼いてますもん」  山田は沈黙した。そして、自分の右手側に転がったフライパンを手にすると、 「ああ、こっちね。惜しかった」  と、負け惜しみのように口にした。  惜しいかな。小春が首を傾げているうちに、山田は、よっこらしょ、と言いながら立ち上がった。  山田はノッポだ。ぴんと背筋を伸ばせば百八十センチはありそうだが、猫のようにまるめている背中のせいで、あまりそうは見えない。なぜいつもそこにばかりつくのかと思う寝癖が、今日も右耳付近で元気に立ちあがっていた。
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