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捏ねていたたねの量を思い返しながら、小春は答えた。
「そうか。そうだよね」
声のトーンを低くして言ってから、山田はより一層、背中をまるめた。
「少なくてもいいなら、いいですけど」
「ん?」
「ハンバーグ。ちょっとなら余せるかも」
明日のお弁当用にと、小分けにして冷凍したものが二つある。それをまとめて焼けば、ぎりぎり一人分くらいにはなるかもしれない。
「……いいよ、わざわざは。ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」
「今ちょっと迷ったでしょ。欲しいなって思ったでしょ。もらっちゃおうかなって悩んだでしょ」
山田は押し黙った。葛藤している。いい大人が、ハンバーグとプライドの狭間で揺れ動いている。
小春はさらに続けた。
「美味しそうだったなあ、今日のは特に。玉ねぎなんて、あんな飴色になっちゃって」
「そこまで言うなら頂こうかな」
ハンバーグがあっさりと勝った。小春のダメ押しに被せて食い気味で折れたところをみると、どうやら 相当食べたかったらしい。何事にも不精な山田が、わざわざ調理器具まで引っ張り出そうとしていたところをみると、それも容易に頷ける。
何はともあれ、もう一度ここへ訪れる口実ができた。小春は隠れて含み笑いをした。
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