第1章

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確かに棚には歴代の先輩たちが残した会議の記録や実際に使った台本、年度末に製作する部誌などがつまっている。しかし、その一つ一つをしっかりと見たことはなかった。 「でも、そこにあるのは先輩たちがやったものでしょ? それを、またやるの?」 「十年前とかのものならさすがにアリでしょ」 茅ヶ崎は棚を開けて、一つ手にとってめくった。黄色い表紙の手作りの台本である。 「あの……」 おずおずとした声が聞こえた。そちらを見ると、指をさすつもりがあるのかないのか、中途半端に丸まった指を茅ヶ崎に向ける野村がいた。 「その、上のダンボールも過去の台本なんでしょうか?」 棚の上にはダンボールが一つ。あれこそ中身を見たことがない。いつもそこにあったのに、初めて見たような気がした。 「これか?」 茅ヶ崎が踏み台にするために椅子を引き寄せる。 「え、それ降ろすの?」 土間の頭には嫌な映像しか浮かんでこない。しかし、茅ヶ崎は何も答えずにそれを降ろした。土間の予想はドンピシャ。ダンボールと共に、大量の埃が舞った。 「うわっ!」 茅ヶ崎はそれを乱暴に机の上に置いて、すぐに離れた。制服をパンパンと払う。一瞬身を引いた他の部員も、今度は引き寄せられるように首をダンボールに向かって突き出した。  大きな埃の塊が一つ。ダンボールは年期が入っていて、カビ臭い。しかし、この古びた感じが部員の好奇心を駆り立てていた。 「うわ、何入ってるんですか、それ?」 榎本がはしゃぐように聞く。「今開けるよ」と言いながら茅ヶ崎は埃が舞わないようにそっと開ける。すると、中からはこれまた古びた冊子と花紙が出てきた。冊子には、一九八六年度文藝祭と書いてある。そういえば市の花にちなんで「桜花祭」と呼ばれる市立榊原高等学校の文化祭は、昔はシンプルに文藝祭と呼んでいたと聞いたことがあると赤坂は思い出した。 「だいぶ古いなー、これ。一九八六年っていつだ?」
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