01 『はねかえる』

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私…まさか。 と! 気配! まっすぐに…私の胸へと! 『ほど』かないと! が…間に合わない? 『ほど』く前に、『つらぬ』かれる? たとえば、この…左胸を? と。 ふわり。 揺れる。 栗色の巻髪。 姉妹の私でさえ見惚れるような、すらりとした背中。 私の目前へ。 ひらりと。 …お姉ちゃん! 『はねかえる』 …と! その声は…そう、お姉ちゃんの声! その『言葉』は…そう、お姉ちゃんの『言葉』! そう。 数え間違いという、私の単純なミス。 そのせいで、ひとつだけ…『ほど』かれずにいた『つらぬく』は。 そのままに! 『はねかえる』! 放たれていた、その起点へと! 弾道を逆行する! 黒白の、水玉模様の、雨傘。 ぱしゅ! と? 裂ける音? それは、言うまでも無く。 黒地のビニールの表面に、小さな無色の水玉が、一個、増えた音! そして、次の瞬間。 黒白の傘…中空へと、吹き飛んで。 『灰色』さん…路上に、俯せている。 遠くの路上まで飛ばされていた、黒白の傘。 裏返しの格好で、ゆらり、ゆらり…と。 いつのまにか。 雨は、強く…飛沫となって。 それなりに混み合っている、バスの車中。 二人掛けのシートに、並んで掛けて。 お姉ちゃんと、私と…少しの間、無言のまま。     
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