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喋る死体
「うぉぉおおおおお!」
男は、その物体を確認すると、尻もちをついてその場にへたりこんでしまった。
「こ、これって・・・死体?」
その物体を死体と認識するとともに、強烈な臭いが鼻を突いて思わず吐きそうになった。
「た、大変だ・・・け、警察!」
男は、この山の渓谷の川に鮎釣りに訪れた釣り人だった。車から釣り道具を下ろし、駐車場から下の渓谷の川へ下りる途中の藪の中でその死体を見つけたのだ。
「警察には知らせないでください。」
不意にそう言われ、男はあたりを見回した。
だが、男のまわりには誰ひとりおらず、そこにあるのは、森と男と死体だけ。
「ま、まさかな。聞き間違いか。」
男は、独り言をつぶやき、再びスマホを手に取る。
「聞き間違いではありません。お願いです。警察には知らせないで。」
男は再び、あたりを見回す。
「何なんだよ、誰だ!出て来いよ!」
どこかに誰かが身を潜めているのではないかと、男は叫んでみた。
「ここです。ここに居ます。」
その声は、明らかに死体から発せられていた。
嘘だろう?死んでるんだぜ?お前。
その声は、そのすでに人間の形をわずかに残した物体から発せられていた。
とうてい生きてるとは思えない。
「驚かせてすみません。ごらんの通り、僕は死体です。」
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