きっと世界は美しい

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「えーと、真木くん、だったよね」  躊躇いがちの呼びかけに、机の上を片付けていた手を止めて顔を上げる。視界の半分以上を覆い隠す前髪の隙間から、女子学生の愛想笑いが見えた。  入学ガイダンスが終わって講義が始まるようになって一週間強。三十名ほどしかいない小規模な学科で、必修の講義はほとんど同じ顔触れであるのだが、悠生は同期生の名前も顔も、ほとんど覚えられていなかった。なんと答えて良いのか分からず黙っていると、彼女が再び気まずそうに口を開いた。 「あのさ。真木くん、今週末の飲み会どうする? まだ真木くんだけ、うちの科のライングループ入ってないからさ」 「あぁ」  そういうことか、と悠生は小さく頷いた。大学に進学しても、学級委員のような役割は自然と生まれるものらしい。 「ごめん。今週末は用事があって」 「そうなんだ、残念」  台詞とは裏腹に、彼女の顔がほっと綻ぶ。分厚い眼鏡の奥からその笑顔を眺めて、まぁ、そうだろうな、とも悠生は思った。  折角の和やかな飲み会に、俺みたいな根暗で不愛想な人間に参加して欲しくはないだろう。 「じゃあ、あの。もし良かったら、ラインのグループ登録だけでも」  集まりごとがあるたびに別途で声をかけるのは面倒に違いない。誘われる理由は分かったが、悠生は首を横に振った。
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