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真木って、なにもできないよな。幼い声に悪意はない。ただ単純に、事実として彼が認識したことを悠生に告げただけだ。
「おまえの兄ちゃん、バスケめちゃくちゃ上手いんだぞ」
他人のことをなぜかひどく自慢げに同級生が言う。知ってるに決まってるだろ。口にはしないまま、悠生は思った。知ってる。でも、もう一つ知ってる。
「真木もやってみたらいいのに。もしかしたら上手くなるかもよ」
なるわけないだろ。兄弟だからって、あいつができるからって、なんで俺もできると思うんだよ。
俺はあいつとは違う。あいつのおまけじゃない。いつもいつも、そうだ。表情に感情を乗せないのは、悠生の最後の意地だった。話しかけられて、期待して、けれどそれはいつも自分の話ではない。
「俺ら、バスケやってたんだけど。おまえも混ざるか? おまえの兄ちゃんも言ってたぞ。おまえは引っ込み思案だから心配だって」
だから、余計なお世話だって、そう言ってるだろ。心配していますという表情をなんなく作って見せる次兄の顔が浮かんだ瞬間、かっと胃のふちが熱くなった。なんでも持ってるくせに。なるべく考えないようにしていたことが頭を巡る。長兄に一番にかわいがられて、勉強もそれなり以上にできて、運動神経なんて抜群で、後輩からもこうして慕われて。そして思い立ったように弟に目をかける。普段は、気にも留めていないくせに。
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