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――うるさい。
唸るような声になった。今までそんな言葉を同級生に向けたことはなかった。お節介と兄への義理とで声をかけてきたに違いない彼らの顔が驚きに歪む。
うるさい。悠生は繰り返した。呼吸が浅くなる。夏の暑い日だった。本当は家にずっといたかったのに。自分の部屋で図鑑を見ていたかったのに。外で遊べと母親に家を追い出され、逃げるように図書館に向かう途中で立ち寄った公園で声をかけられた。その奥にあるのは、バスケットゴールだ。通るんじゃなかった。こんなところ。悔やんでも後の祭りだ。
うるさい、うるさい。俺に構うな。
幼子の駄々のように叫んで、悠生は駆け出した。太陽がじりじりと背を焼く。外で遊ばないと駄目なのだろうか。家の中で星座盤を見ていることは、そんなに駄目なことなのだろうか。
うるさい。誰にともなく悠生は繰り返した。ひたすらに走る。うるさくないところに行きたかった。誰も、自分を邪魔しないところ。誰も、自分を否定しないところ。
あとどれだけ走ればそんなところに辿り着けるのか、悠生自身も知らなかったけれど。
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