きっと世界は美しい

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 チャイムの音と、ドアを叩く音。その音で、夢がゆっくりと遠のいていく。どこかぼうっとしたまま、時間を確認するためにスマートフォンに手を伸ばす。滅多と光らないそれにいくつものメッセージ。笹原。その名前を認識した瞬間、ばっと目が覚めた。 「悠生ー、もう寝ちゃった?」  隣近所の迷惑なんて考えていない声量に、酔っているらしいとも悟る。枕もとの眼鏡だけを取って、フローリングに足を下ろした。どうせ、いつも家にいるときと変わらない格好だ。ちらりと見た画面に表示されていた時刻は、午前二時に近かった。  ……普通、寝てるだろ。  との突っ込みも、酔っ払いには無意味だろう。そもそも通常の笹原だったら、こんな時間にドアの前で騒がない。 「おまえ、今、何時だと思って……、っ」  ドアを開けた途端に汗ばんだ身体に抱きつかれて、言葉が途切れる。 「悠生」  調節のできていない大きな声が耳元で響いた。手の置きどころをどこにすべきなのか分からなくて、無意味に掌を握りしめて開いてを繰り返す。この状態なら気が付かれないだろうことだけが救いだった。 「ただいま」 「……おまえの家は、ここの隣だ」  抱き返すことも突き放すこともできなかった指先をそろそろと持ち上げて、その胸を押す。 「というか、汗臭い」  本当は微塵もそんなことを思ってはいなかったけれど。ぶっきらぼうな応えにも、笹原は楽しそうに笑うだけだ。陽気な酔っ払いだなと思ったが、笹原がこれだけ飲んでいるところは初めて見た。
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