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――やっぱり、家で自分と呑むより、外で大人数で呑む方が楽しいのだろうか。
そんな当たり前の想像で、もやりとしたものが沸く。否定したくて、もう一度、胸を叩いた。これ以上このままでいると、動揺が伝わってしまいそうだった。その腕を笹原が掴む。そして、靴を脱ぐなり、そのまま室内へと入っていく。
「笹原?」
「あのね」
衒いのない声が悠生を奥へと誘う。
「きれいな星が出てたから、悠生に会いたくなって」
「星?」
「そう。だから、一緒に見ようよ」
そういえば、今日はよく空が晴れていた。この街は星がよく見える。けれど、気にかけて見上げなければ気が付かないだろう。
――それに気が付いて、俺と見たいと思ってくれる。
悠生が星を好きだと知っていたから、たまたま見上げた夜空と悠生の顔が繋がった。それだけのことだと分かっているのに、鼓動が早くなる。まるで、初めての恋を知った少女のようだ。思い至った比喩に我に返る。なにを考えてるんだ、俺は。現実に思考が戻れば、笹原が向かおうとしている先が、にわかに危険に思えてきた。
「なぁ、笹原」
「ん? なに?」
「酔ってるだろ、おまえ」
振り向いた締まりのない顔に、悠生は駄目押した。「ベランダは今日はなし」
「えー、なんで」
「危ないからに決まってるだろ、この酔っ払い!」
不満に口を尖らせながら、ずいずいと進んでいこうとする。自分が踏み止まることで阻止を試みた。どちらに軍配が上がるかなんて、分かり切っていたけれど。
案の定、つんのめる形になって笹原の背に激突する。悠生には予見できていた未来だったが、笹原にはそうでなかったのか、その身体が揺らいだ。
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