きっと世界は美しい

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 悠生が大学進学に際して選んだのは、地方公立の教育大学だった。  あんな調子で教師になるつもりなのかな。投げつけられた揶揄を、一人の帰り道に思い返す。  そんなこと、言われなくても自分が一番良く分かっている。実際に、悠生が今の大学を選んだ理由は、ただの消去法だ。教師になりたいなんて、きらきらした夢を抱いて門徒を叩いてはいないのだ。  大学から下宿先の学生アパートまでは、徒歩十分ほどだ。悠生の生まれ育った町よりも開花の遅い桜は、葉桜になりきっていない。川沿いの桜並木には、まだうっすらと春が残っている。舗装された道路にひらひらと舞い落ちる花弁のひとつをスニーカーが踏み付けた。  あ、と思って足を上げる。道路に張り付いた春が、妙に恨みがましく自分を見つめているように思えて、悠生は小さく頭を振った。  地に足を付けて生きなさい。口煩い母親の顔が浮かぶに至って、自然と溜息が零れる。 今から帰る家に自分を待ち構える人間がいないことに、何とも言えない安堵を覚えた。  通りを歩けば知らない顔にも声をかけられる。真木さんのところの末っ子。あるいは昴生さんの弟。自分のことなんて知らないはずの他人から自然と干渉される閉塞的な田舎。それが悠生の生まれ故郷だ。十八になって、やっと離れることができた。  少しは変われるだろうかと思ったが、人間の本質なんて早々には変わらない。そのことも、地元を離れて一月弱で思い知ったけれど。
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