きっと世界は美しい

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「まーきくん」  隔板を超えて飛び込んできた声に、悠生はぎょっとして手の内から吸いさしを取り落としかけた。本体の落下はなんとか防いだが、灰はぱらぱらと夜風に乗って落ちていく。その行く末を呆然と見送っていると、今度は顔がひょこりと境界線を越えて覗き込んできた。 「いっけないんだー、煙草」 「……おまえもだろ」  頭を振って、前髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。前髪の隙間から、笹原の右手に光る吸いさしが見えた。憮然とした応えになってしまったが、笹原は気を悪くした様子もなく、へらりと笑う。 「ざんねーん。俺、一浪してるから、もう二十歳なんだよね」 「二十歳だったら、二浪じゃねぇの」 「違います。四月二日生まれなの」  人好きのする整った顔が、またにこりと微笑む。 「お兄ちゃんって慕っても良いのよ。お隣のよしみで」 「……」 「あ、ちょっと、真顔で黙らないでよ、真木くん」  苦手だ。しっかりと会話を交わしたのは今日が初めてだが、再認した。人当たりの良い派手でチャラいタイプとは、俺は合わない。  というか、こういうタイプも、俺みたいな根暗な人間は嫌いだろう、と悠生は判断した。どこに行っても存在する、スクールカーストと言うあれだ。俺はいつも最底辺。  こいつはきっと、最上位。  とっとと吸い終わって、中に戻ろう。決めて、またペースを上げる。 「真木くんって呼んでも良かった? それとも、真木でも良い?」  排他的な悠生の空気にも関さず、笹原は愛想良く話しかけてくる。放っておいても一人で話し続けそうで、悠生は仕方なく口から煙草を離した。
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