後日談

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後日談

「そういえば、悠生って、結局、お兄さんと仲直りしたんだ?」  あっけらかんと問われて、悠生は口を曲げた。仲直りと言われると語弊はある。語弊はあるけれども。 「なんで?」  質問に質問で返している時点で、ほぼ答えているようなものだとも思うが、そうとしか言えなかった。広げていた教科書を閉じて、笹原を見上げる。面白がっているわけでもなく、純粋に気にかけていてくれるのだと分かるだけに拗ね切れない。 「んー、最近、メールが来ても、前ほど嫌そうな顔をしてないから、かな」 「そんなあからさまか? 俺」 「逆に言えば、俺が悠生のことをよく見てるからとも言えると思うけど」   にこ、と笑うその顔に抜かれたのは毒気と意地だ。 「夏くらいに、ちょっと話せたから」 「一番上のお兄さん?」  良かったね、と心の底から安心したように笹原が言うものだから、隠しているのも馬鹿らしくなって、悠生は続けた。 「というか、その一番上のって、東京で売れない舞台役者やってるんだけど」 「え?」 「芸名までは覚えてねぇけど、昴生っての。大学の途中で、演劇に目覚めただのなんのって言って、親の反対とか全部押し切って、どぼんとアングラな世界に潜り込んだんだけど」 「え? え?」 「それで、ってわけじゃないけど、まぁ、なんというか、恋愛相談的な」 「恋愛相談!?」  素っ頓狂な声に、悠生は喉の奥で笑った。悠生とはまた違う意味で感情表現が平淡な男にしては珍しい。 「そういえば、結果は教えろって言われてたんだけど。まだ言ってないな」  せっついてこないのは、優しさなのか、ただ単に忘れているだけなのか。長兄のそういったマイペースさは、いまだによく分からない。悪気はないらしい、というのはなんとなく理解したけれど。ついでに、それなりにかわいがってもらっていたらしいということも。認めてもいいかという気分になっただけだ。  目を白黒させている笹原に、悠生は駄目押した。
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