オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 終章「雰囲気イケメン」…

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 もうひとつ、松田龍平の魅力は、剛と柔の微妙なバランスにある。 顔立ちは東アジア的繊細さなのに、頬骨や眼窩、顎はしっかりしていて男性的、角度によっては面長にも丸顔にも見え(私には仏像のように見える時すらある。)その上に、きめ細かい白い柔肌をまとっている。無表情だとツンとして近づき難い印象だが、ちょっと微笑むと鼻のわきにしわが寄り上唇は花びらのようにめくれて、なんだか急にアドケナクなる。手の魅力もよく言われているが、それも指が長くてきれい、というような単純なことではない。骨はしっかりして男っぽいが、長い指の先が子供のように丸く小さい爪がいかにも清潔。煙草を挟む指が弥勒菩薩のそれのように撓る。この剛と柔の微妙な混ざり具合が彼にしかない魅力を生み出す。  事務所のプロフィール写真が最近変わった。ブロマイド的なものではない。無表情、とも違う。感情がこれ、と一言で説明できない表情。つまり松田龍平のお芝居に似ている。ベージュ系のジャケットにTシャツ。  知的な印象のショットもあれば、ただ、ぼけっとしているだけなんじゃない?みたいにも見えるのもある。冷淡にも見えるし人懐こそうにも見える。寂げなようなフテブテシイような。顎は細いが頬の線は20代より緩やかになり鼻のわきに影が出る。それが何とも、いわく言い難い甘さ。大人の男なのに、どんな色にも染まりそうな無垢な感じ、とでもいおうか。  私の大変狭い経験知識で申し訳ないのだが、男性は30代中盤くらいになって、やっと外見的に「男」になるようだ。それまでは、まだ「おにいちゃん」の範疇。男も女も、異性の目を引き付けるのは「おにいちゃん」「おねえちゃん」の頃。それは生物として当然なんですが、そんな「若さ」というお飾りがはずれた時に、子供の時間が終わってからの十数年を、何を大切にしてきたか、何を遠ざけてきたか、なんとなく顕われてくるのではないか。  10代の頃の幻の虹のような「危うさ」をどこかに残しつつ、20代の目に痛いほどの「まばゆさ」は鎮まって、34歳の今、複雑な、えも言われぬ陰影をもった表情。 「雰囲気イケメン」とか、訳のわからないレッテル貼らないでほしい。 松田龍平の容貌を説明するのには「美しい男」の一言で済む。
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