オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 終章「雰囲気イケメン」…

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 松田龍平の顔のパーツは、目も鼻も口も小さめで一つ一つの形が整っている。それは漫画ではなく、能の面(おもて)の静かな美貌に近い。その静かな目鼻が、構築的に整った骨格に乗っている。横からや斜めから見たら良く判るが、額の角度、鼻からオトガイにかけての線がヘレニズム彫刻や仏像などの基本バランスと近いと息子が教えてくれた。 なるほど。息子は美大で彫刻を専攻するから、人体の骨格を見る目は信用できる。 つまり松田龍平には「イケメン」なんて言い方は全く当てはまらない。  松田龍平は隋分背が高い。背が高い男が好きな女はゴマンといる。 背が高いと手足は長いし何を着てもカッコよく決まる。それは認めますが、実を言うと私は小柄派。小柄な男性の方が男っぽく頼りがいがあり、セクシーに感じる、そういう生理的感性を持っている。  それは私の持って生れた好み(幼稚園の時からそうだった)だが、背の高い男性の持つ「根拠のない奢り」が薄っぺらく見える、という理由もある。そういう匂いを嗅ぎつけると、とたんに、つむじ曲がりな私は「背が高いですね、それがなにか?」と言ってみたくなる。だって、サバンナに住んでいる狩猟民族じゃあるまいし、そんなに遠くが見渡せたって生物のオスとして別に優秀でも何でもないじゃない。ここは東京で、私たちは狭い土地を分け合って暮らしている。なのに体が大きいことに、なんでそんなに自信持つの?それより小柄な男が持つ気概と工夫に、頼もしさと色気を感じるんです。  ところが、松田龍平には「背の高い男」の浅はかな奢りが感じられない。むしろ「こんなに長くて…どうしようか」みたいな、自分の長い手足を持て余しているような、所在なさげな感じさえする。背の高い男がよくするように偉そうに歩かずに、猫背で、とことこ歩いたりする。これが計算してやっていることなら賢い。素ならもっと素敵じゃない? 筋トレとかで見せる筋肉をつけてないところもセンスがいいなあ。
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