1話 『家出』

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   ***  ミズ姉の気迫に圧倒されている間に、いつの間にか時計は、2時1分前を指していた。  なにがあるわけでもないのに、心臓が飛び上がって、眠気が一瞬で払拭された。  急に五感が鋭くなった感じだった。  雪の砕ける音、息が入り、出て行く呼吸の音。  不規則な心臓の音。  普段は聞こえない、かすかな秒針の音まで聞こえる。  あと30秒。     ミズ姉が吐き出すような声も、耳に痛いほどだ。    __突然、地面が柔らかくなって、足下が陥没した。  いや、世界が歪んだわけじゃなかった。    歪んでいたのは、鏡の中の、僕らだった。
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