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物語は、冒頭の約5分前へ。
2月29日、森の木々も眠る午前1時50分頃。
ふたりはしっかり私服を着て、ちゃっかりリュックまで背負って、洗面所にいた。ミズ姉は白いワンピースに黒のカーディガン、僕はフード付きの白いセーターにジーンズ。外と気温の差がないこの洗面所では、二人とも肌寒い格好だ。
でも、なんでわざわざ洗面所に?
目的は、鏡からの家出だ。
「・・・ミズ姉、本気なの?」
「あんたねえ、私が嘘ついたことが今までに一度でもあった!?」
「今日もデザートの大福の数、嘘ついたでしょ。」
「あら、そうだったかしら。」
すまし顔で長い髪に指を通す。こんなだから信用できない。
家出の話だって本気だとは思ってもいなかった。
***
「家出って・・・なんで?」
「うんざりするのよ。学校行っても、家にいても、みんな予備校、大学、就職。それしか言わない!」
最近は特にひどかった。
あの予備校の先生は云々、あの大学は云々、卒業後の進路は云々。耳にタコどころじゃない。
学校の先生も、母さんも、みんな関係者だけど、受験の当人じゃないでしょ!?少しくらい私にも選択権をちょうだいよ。
そんなこと言えば、あんたは分かってないだとか、結局振り出しに戻る、だ。
日に日に、心の奥底で煮えるどろどろとしたものが、濃く、暗いものになっていく。
あてのない苛立ちをどうすることもできず、ベッドに寝転がった。雪が、窓に当たっては渇いた風にのってどこかに飛んでいく。
2月28日。
明日は、閏日だ。
2月29日。
2月29日だ。
特別な日には、気持ちが高ぶる。
・・・ああ。
家出、しようかしら。
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