1話 『家出』

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 ハスは、まったく信用しようとしなかった。 「いや、・・・え?鏡?」 「そ、鏡。」 「鏡って、ドアじゃないよ。」 「当たり前でしょ。なに言ってるの。」  ハスのその大きな瞳が、理解できないことを語っている。  ま、信じられないのは分かるけどね。  でも、私は知っている。  2月29日は特別だ。  4年に一度の閏日というだけではない。     2月29日は、鏡に近づいてはいけないよ。  母さんの言葉、今でも覚えている。表情も、周りの景色さえも。  どうして、と聞いた自分の声も、いつでも頭で再生できる。   鏡に触れると・・・ 「あ、洗面所の鏡が、実ははずれるとか?」  ハスは自分の中で納得のいく答えを勝手に見つけたようだった。 「ま、なんでもいいわよ。  とにかく、今日・・・日付で言えば明日になるけど、午前二時に家出するから。生活必需品をリュックに詰めて洗面所に集合よ。」  うなずいたハスは、まんざらでもなさそうだった。    
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