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もうあくびをするのも何回目だろうか。
普段ならとっくに夢の世界で生活している時間なのに、今夜は鏡の前で、鏡の国に行く準備中だ。でも、僕らはアリスじゃない。
また、時計の針が動いた。2時7分前。
「・・・ねえ、ミズ姉。本当にこの鏡はずれるの?」
「はずしてみりゃいいじゃない。」
ミズ姉は面倒くさそうだ。自分から言いだしたくせに。
身長の低い僕はもちろん、170センチ近いモデル体型のミズ姉の姿もすっかり映してしまうほどの姿見は、触れると痛いほどに冷たくなっていた。壁の一部となっているそれの端をつかんで、力いっぱい引っ張る・・・といっても、僕の力なんて、脆弱にもほどがあるけど。
細い腕と足にもてる限りの力を込めても、鏡はうんともすんとも言わない。
「ミズ姉・・・はずれないよ・・・。」
「当たり前じゃない。はずれるわけないわよ。」
え・・・
「じゃ、じゃあ、どうやって家出なんかするの!?」
鏡がはずれないなら、洗面所からの家出なんて不可能だ。洗濯機の上に小さな窓があるけど、ぎりぎり僕が通れるか、無理か。
時計は『11』を指している。2時5分前だ。
ふと。
ぐにゃり、と鏡の中の姿が波打ったように見えた。
もう、眠気も限界だ。
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