超初心者

1/6
前へ
/21ページ
次へ

超初心者

 暗い部屋で、レイトは右手を軽く上げて、指をパチンと鳴らした。すると、即座に、電気もついていないのに、あたりが明るくなった。 「見つかったら、あたし、そばにいけないのよ~」  ドレッサーの前に座り込んで、ブラシをつかみ、サラサラの紫の髪にすうっとそれを通し始める。 「肉体って重いのね~、本当に。あたしの曲線美が台無しじゃな~い」 (いや~ん、ここ、絡まってるわよ。  髪傷んじゃう~)  繊細に髪をブラシでほどきながら、レイトの独り言は舞い続ける。 「あれから、二十五年……最初のうちはよかったのよ」 (七歳までは、平和な日々だったのよ)  ブラシを持っていた手を、下にだらっと落として、 「でも~、ルーちゃんが転生してから、あたし、呼び出されっぱなしで、肉体にほとんど入ってないのよ」 (あたしにも、生活があるのよぉ。  この世界では、肉体持って、転生してるんだから)  ブラシをドレッサーの上に置いて、コットンをひとつとり、化粧水をトントンと垂らす。 「結局、あたし、初心者のままなんだけど……」 (どうしてくれるのよ?)  月のように美しい頬に、丁寧にコットンを当ててゆく。 「魔法、正確に使えるか、ちょっと不安って感じぃ?」  次は綺麗な赤紫の半透明のビンを取り、キャップを外して、 「やっぱり~、この美容液が一番よね」 (肌が嫌がらず、気持ちよく、吸い込んでいくのよね)  手に透明で、もちっとした液体を取り、丁寧に顔へ塗り込んでゆく。 「あたしも、もう少しで、二十五じゃない? お肌の曲がり角ってやつよ」  レイトは鏡の中に映った、月のように透き通った自分の顔を見つめて、悩ましげなため息。 「なんで、肉体って、年老いていっちゃうのかしら? いらなくな~い、それって。乙女の最大の敵よね~。女は誰だって、永遠に若く、う・つ・く・し・く!」  野太いなよっとした声で、締めくくったところで、レイトはさっと立ち上がった。アンティークなチェストの上に置かれた、ジュエリーボックスを慣れた感じで、開けて、女物の細い腕時計をして、アメジストーー真実の愛を守り抜くという意味の指輪を、右手の中指につけた。  内手首の腕時計を見つめて、 (あと、五秒ね……四、三、二、一)
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加