4人が本棚に入れています
本棚に追加
超初心者
暗い部屋で、レイトは右手を軽く上げて、指をパチンと鳴らした。すると、即座に、電気もついていないのに、あたりが明るくなった。
「見つかったら、あたし、そばにいけないのよ~」
ドレッサーの前に座り込んで、ブラシをつかみ、サラサラの紫の髪にすうっとそれを通し始める。
「肉体って重いのね~、本当に。あたしの曲線美が台無しじゃな~い」
(いや~ん、ここ、絡まってるわよ。
髪傷んじゃう~)
繊細に髪をブラシでほどきながら、レイトの独り言は舞い続ける。
「あれから、二十五年……最初のうちはよかったのよ」
(七歳までは、平和な日々だったのよ)
ブラシを持っていた手を、下にだらっと落として、
「でも~、ルーちゃんが転生してから、あたし、呼び出されっぱなしで、肉体にほとんど入ってないのよ」
(あたしにも、生活があるのよぉ。
この世界では、肉体持って、転生してるんだから)
ブラシをドレッサーの上に置いて、コットンをひとつとり、化粧水をトントンと垂らす。
「結局、あたし、初心者のままなんだけど……」
(どうしてくれるのよ?)
月のように美しい頬に、丁寧にコットンを当ててゆく。
「魔法、正確に使えるか、ちょっと不安って感じぃ?」
次は綺麗な赤紫の半透明のビンを取り、キャップを外して、
「やっぱり~、この美容液が一番よね」
(肌が嫌がらず、気持ちよく、吸い込んでいくのよね)
手に透明で、もちっとした液体を取り、丁寧に顔へ塗り込んでゆく。
「あたしも、もう少しで、二十五じゃない? お肌の曲がり角ってやつよ」
レイトは鏡の中に映った、月のように透き通った自分の顔を見つめて、悩ましげなため息。
「なんで、肉体って、年老いていっちゃうのかしら? いらなくな~い、それって。乙女の最大の敵よね~。女は誰だって、永遠に若く、う・つ・く・し・く!」
野太いなよっとした声で、締めくくったところで、レイトはさっと立ち上がった。アンティークなチェストの上に置かれた、ジュエリーボックスを慣れた感じで、開けて、女物の細い腕時計をして、アメジストーー真実の愛を守り抜くという意味の指輪を、右手の中指につけた。
内手首の腕時計を見つめて、
(あと、五秒ね……四、三、二、一)
最初のコメントを投稿しよう!