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レイトは美しく流れるような仕草で、肩にかかったサラサラの髪を手で後ろへ払いのけ、
「始まったわね」
(五千年後の七月七日)
この次元では見えない、剣の柄に手をかけ、
「じゃあ、あたしも移動ね」
(どうしても、今日じゃないといけないのよ、あたしは)
右手を上げようとして、すぐにやめた。立派なドアへ振り返って、急に真剣な顔つきになり、
「きっと、追っ手がかかるわよね、あたし」
そこで、体を悩ましげによじらせて、
「いや~ん、あたし狙われちゃう~!」
指をパチンと鳴らすと、レイトの姿が一瞬にして消え去った。
瞬間移動をして、突如広がった光景は。
どこまでも続いてゆく薄闇。
遠くの空に、星がキラキラと散りばめられていて。
風の匂いは湿った独特もので。
頭上には、銀の満月が輝いている。
肉体という重力を嫌でも感じるものに、逆らえず。
下にすうっと落ちてゆき、突如、
ジャボン!
という派手な音をともなって、レイトの体に水が急に襲ってきた。
「きゃあ~っ!」
全ての音は一瞬にして濁り、慣れない肉体は、大きく左右に揺さぶられ、ブクブクと泡を発しながら、
「ごご、どごよ~?」
(ここ、どこよ~?)
パチンと指を鳴らすと、さっきと同じ風景が広がっていた。足元に視線を投げ下ろすと、キラキラと月影を泳がせている水面が。
「海~?」
一瞬にして、ずぶ濡れになったレイトは、大声で叫んだ。
「いや~ん、トリートメントと、スキンケア台無しじゃな~い!」
(海水はお肌と髪に良くないのよ)
べっとりしてしまった自慢の髪を手で触って、
「出直し?」
肌に吸い付いた服から、水滴が海面へ落ち、変革的な波紋を作る。腕組みをして、周りを見渡す。本当に海の真ん中に来ているようで、陸が全く見当たらなかった。
「でも、元の場所に戻れるかもわからないのよね。仕方がないわね」
顔のあたりで、右手をパチンと鳴らすと、一瞬にして、濡れていた髪と服は元どおりに。ひたいに人差し指を当て、場所を霊力で確認。
「……バミューダ トライアングル? 時空が歪んでるところよね、ここって」
肉体保有の初心者に、よくもしてくれた神ーー悠に向かって、レイトは文句を放った。
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