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「どうしてくれんのよ? スタート地点が歪んでたら、全部歪んじゃうじゃな~い!」
(次、どこへ行くかわからないじゃない、これじゃ)
申し合わせたかのように、悠の声が上から降ってきた。
『肉体を学べてよかったですね』
「あんた、何でも前向きね」
レイトは海の上に浮かんだまま、神経を研ぎ澄ます。
「……西ね、とりあえず」
指をパチンと鳴らすと、姿がぱっと消えた。
空間の移動から解放されると、また薄闇が広がっていた。
重力に逆らえずに、地面へすとんと落ちると、草を踏む音がした。
「違くな~い?」
レイトのアッシュグレーの瞳には、
上へ伸びる縦の黒い線がいくつも映り。
レースのカーテンのように、銀の光が細く切り取られ。
星空を覆うような、まだらの影。
「どこの森よ?」
数歩歩くと、
「いった~い!」
190cmもある、レイトの膝に、硬い板のようなものが当たった。
「いや~ん、あざができちゃうじゃない」
(ラベンダー使わなくっちゃ)
障害物に手を当てると、ゴツゴツとした感触が。
「何よ、これって?」
かがみこんで、のぞき込むと、文字が彫られていた。
「In Loving Memory……? お墓?」
(愛すべき想い出と共に)
墓石に手をかけたまま、レイトはあたりへアッシュグレーの瞳をやると、他にも色んな形のそれらが草の上に鎮座していた。
「どこよ? 今度は」
ひたいに人差し指を当てて、
「スコーグスシルコゴーテン(森の墓地)……」
盛大にため息をついた。
人は誰もいないのに、気配がたくさんあり、視線を何故か感じる場所。レイトはそこら辺に、うろつく浮遊霊を眺めながら、
「西に来すぎじゃな~い!」
(大西洋から、スウェーデンに来ちゃったわよ)
そして、アメシス王子として、軽くちゃちゃっと仕事をする。
「あんたたち、天に帰りなさいよ~」
(地上にうろつくんじゃないわよ。
他の人の迷惑以外の何物でもないわよ。
それに、自分が辛いだけだから~)
パチンと指を鳴らすと、浮遊霊が一斉に成仏された。聖なる場所と化した墓地に、レイトのため息が舞う。
「人は死後、森に還る……」
(あそこだけは、結局、変わってないのよね。
五千年前と同じ……森と死……)
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