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そこへ、窓の外から、レイトの密かなツッコミが。
『仲良しじゃないわよ。罠仕掛けてくるんでしょ? ヒュー ウィンクラー。昔から変わらないわよね、あの男も。人に悪戯ばっかりして~。快楽っていう罠に自分がはまってんのよ』
精霊族の力を魂の奥底に無理やり沈め込めさせられたルーには、レイトの声は聞き取れず、姿を見ることも出来ず。机へ振り返って、聖書をじっと見つめて、
「息子のかわりに、それを燔祭の犠牲として捧げた……」
(Compensation for sacrifice. (贄の代償)……)
長い金の髪をかき上げ、ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。その眼前は、きらめき市が一望できるベストポジション。タワーマンションの最上階。
人などいないはずの、空の上ーー同じ高さに、紫髮の人が地上に立っているように浮かんでいた。
「ルーちゃん、いよいよ始まったわね」
(お久しぶり~。
十六年経っても、か・わ・い・い!)
アメジストの指輪をした、綺麗な指で、髪をさらっとかき上げて、
「旧約聖書、創世記22章1節から19節、イサクの燔祭……」
(そんなものに、気ぃ取られちゃって。
嫌な予感、思いっきりするじゃな~い)
ルーはカーテンを開けたまま、無防備に着替え始めた。レイトは滑らからな白い肌を見て、
「あんた、いつ見ても、綺麗な体してるわね。まるで、あんたの心を映してるみたいーー」
レイトはそこで、自分の行為に気づいて、両手で顔を覆った。
「って、いや~ん、のぞき見になってるわよ」
BL王子は背をくるっと向けて、遠くの夏空を眺めて、遠いラピスラズリに想いを馳せ、
(あんた、もしかして、あれ、やってるんじゃないでしょうね?
昔、よくしてたやつ~。
バイセクシャルって、思いっきり勘違いされたわよ。
誰とでも、あんた手つなぐから、誤解されんのよ~。
それだけじゃなくて~、誰にでもーー)
「って、話聞きにいかないといけないのよ、あっちに」
(あたしの魂も修業とか言われちゃって、悠、全部教えてくれないのよね)
レイトはルーの部屋へ振り返った。もう、着替えを終えたようで、ルーの姿はなく。
「入るわよ~」
綺麗に磨かれたガラスの中へ、手を伸ばした。何の境界線もなく、すっと中へ入った。
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