4人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………」
(あの者が原因ではないんですが……)
「…………」
(ルーちゃんのせいじゃないのに……)
ふんわり天使のルシアの笑顔が蘇って、あの純粋無垢な瞳の持ち主に、課せられた五千年前の運命を思い返すと、しばらく沈黙が続いてしまった。
悠が先に我に返って、持っていた資料をレイトへ見せ、
「あと、こちらをしてください」
「まだ、あんの~?」
レイトのアッシュグレイの瞳に映った文字を見て、悠に射殺すような視線をやった。
「あんた、あたしに何させる気ぃ? 何なのよ、このオプションは」
「そばにいた方が何かといいですよ」
(いつ、計画変更してくるわかりませんから、ルシア シンダールは)
あまりの内容に、レイトはあきれ顔。
「あたし、そんな歳じゃ、もうないんだけど~」
(旧石器時代ぐらい前の話じゃない、これって。
それくらい、古いポジションなんだけどぉ~)
そこへ、悠の強引な言葉が、
「これは戦術のひとつなので、お願いします」
(レイトに拒否権はありません。
全ての世界で、調整済みです)
レイトは珍しく顔をしかめて、
「あたし、あの魔法使いたくないんだけど……」
(すごい罪悪感が出るから、かけたくないのよ)
悠はにっこり微笑みながら、こんな提案をした。
「ヒュー ウィンクラー経由で、理事長へ申し出れば、問題ないと思います」
レイトはいぶかしげな視線を悠へやって、
「ヒュー ウィンクラー? あたしの言うこと聞かないわよ~、接点が全然ないんだから」
(あんた、あたしが一番興味のない王子持ってきたじゃない?
それじゃ、動かないわよ、あたしは)
悠は腕時計へ目をやって、
「そうですね……? あと、十年後には、あちらからの攻撃が、彼の者に向かってきます」
レイトの瞳が急に真剣さを増した。神経を研ぎ澄ませ、高い霊力を使って、未来を見て、
「……そう、そういうこと。それを利用しろってこと?」
(ヒュー ウィンクラー、狙われるのね。
そして、心を閉ざす。
航空機事故の真相を探すことになる。
そうなると……それを使えば、動くってことね)
そこまで、考えて、目の前でにこにこしている悠に、レイトはため息まじりで、
「あんた、怖いわね、本当に」
(人の弱みにどんどんつけこんできて~)
最初のコメントを投稿しよう!