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「えっ! 堂城君。あの雫丘出版の副編集長なのすごい!」
堂城君は、出会った頃から、本の虫でいつも何かしらの本を読んでいた。
「すごくないよ? それに、副編集長って言っても、会社全体の副編集長じゃあなくて、いま自分が所属している編集部の副編だから」
「そうなんだ! けど、やっぱり堂城君は凄いよ! 私が働いている出版社、名前は女の子ぽいのに、社員はほぼ男性しかいなんだよ!」
樹利亜が、働く大手出版社「菜々(なな)」は、名前こそ女の子みたいなのに、働いている女性は、会社全体で50人にも満たない。
それぐらいこの会社には、女性が少ない。
だから、樹利亜には同期に女性が一人も居ない。
それでも、樹利亜は、グルメと花を扱う編集部で編集者として毎日駆けずり回っている。
樹利亜たちが発行している毎日の食卓に可愛いをコンセプトにし「sweet table」
この雑誌は、毎日の美味しい食卓に、季節の花を飾ろうをコンセプトにした、グルメとお花を同時に紹介するグルメ雑誌であると同時に、園芸雑誌でもある。
「えっ? 樹利亜……」
堂城は、そこで言葉を区切る。
「堂城君。私に気なんて使わなくていいよ?」
「…ごめん」
堂城君が気にしているのは、きっと私が、彼に話した夢の話。
私は、デザイナーになりたかった。
でもその夢は、七瀬龍治に無理やり妻にされたせいで、夢ごと奪われた。
だからこそ、堂城と同じ出版の道に進む事にした。
彼ともう一度再会する為に。
「謝らないで! 堂城君!? 私は、貴方にもう一度会いたくて、貴方と同じ道を選んだの!」
樹利亜は、唇が触れる寸前の距離まで顔を近づけた。
「…」
堂城は、そのまま樹利亜を自分の腕の中に抱きしめ、彼女の額にキスを落とす。
『ありがとう。俺に、会いにきてくれて』
「…ありがとう。私に、もう一度会ってくれて」
堂城の小さな独り言に、腕の中の樹利亜が小さな声で返事を返す。
★★
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