108本の赤い薔薇の花束

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「……もしかして、樹利亜さん?」  勤務を終え、職場である「菜々」を出ると一人の女性が自分に声を掛けてきた。 「えっ?」  樹利亜は、自分に、声を掛けてきた茶髪の髪の長い女性に見覚えがなかったので傾げる。 「私です! 樋宮灯です。ほら? 大学時代にフラワーショップ「ホワイト」で一緒にアルバイトをしていた」 「灯さん!」 ※樋宮灯。大学時代、フラワーショップホワイトで、バイトをしていた時一番仲がよかった同僚(但し、樹利亜の方が2歳年上)。 「はい。お久しぶりです」 「久しぶり! 灯さん元気だった?」 「私なら元気ですよ? それを言うなら樹利亜さんも元気そうで。それに会わない間に綺麗になりました」 顔をにやにやさせながら樹利亜の顔を覗き込む。 「あっ!  もしかして好きな人でもできたんですか?」 「いいいないよ! 好きな人なんて? いる訳ないじゃん」 「……」  樹利亜の即行の否定に、灯はどういう訳が言葉を失ってしまった。  だけどすぐさま、何かを思い出したか口を開いた。 「…あぁそうだ! 樹利亜さん。私、来月結婚するんです。今一緒の職場で、働いている鳴海坂昴くんって子」  灯さんは、樹利亜に、アルバイト先に、大学卒業後、そのまま就職した事、そして、当時アルバイト(現在は正社員)して働いていた昴くんと出会い、4年間の交際を実らせ、自分の誕生日でもある12月25日式を挙げることを樹利亜に簡略的に説明した。 「本当に? おめでとう」 「ありがとうございます」  嬉し恥ずかしそうに、左手の薬指に光り輝く、昴から貰ったのであろう真ん中に小さな赤いダイヤ埋め込まれた銀色の婚約指輪を樹利亜に見せる。 『ありがとう。それでねぇ? 樹利亜さんにも私達の結婚式に参加して欲しいの?』  きっと彼女は、自分をどんな方法を使ってでも誘うつもりだったのだろう? その証拠に、灯が差し出してきた招待状には、あいつと結婚して名前が変わっているのに、旧姓の南浜樹利亜様と書かれていた。  きっと、彼女は、私が堂城君とじゃなくてあいつと結婚した事を知らない。だから…私はいけない。行ってはいけない。 『ありがとう。でも、ごめん』  樹利亜は、灯が差し出してきた招待状を受け取られず、そのまま灯の横を通り抜け彼女とは反対方向に駆け出した。 『樹利亜さん!』  駆け出した樹利亜を引き留めようと、灯は大きな声で名前を叫んだ。  だが、その声は、突然吹いた風によってかき消された。 ★  
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