108本の赤い薔薇の花束

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 少しばっかり時間を戻す。 「……店員さん?」 「あぁ! すみません」  樹利亜は、突然店に現れた泉石渚くんと店長の関係が気になりながらも、男性に視線を戻す。 「さっき程の方がおっしゃっていたように、108本の薔薇の花束の花言葉は、結婚してくださいになります」 「……」  男性は、何かを考えるかのように、バックの中からスマートフォンを取り出す。 「あの? これ見て貰ってもいいですか?」  男性は、樹利亜に一枚の写真を見せる。 「これは?」 「僕の彼女です。」  写真に写っていたのは、病室のベットで眠る女性。  だけど、普通に病院に入院している入院患者には見えない。 「……店員さん。僕の彼女は、末期のがんで、もうそうに長く生きられないんです。例え、生きられたとしても、長くて半年」  男性からの思いもしない告白に、樹利亜は言葉を失ってしまう。  そんな人に、自分は、108本の薔薇を勧めてしまった。 「…店員さん。僕は、彼女と出会って、互いに愛しあって、もしかしたら、僕は、彼女と出会わなければ、一生一人だったかもしれない。そんな自分を彼女は変えてくれた。だから、最後に、もう一度彼女にプロポーズをしたいです。生まれ変わっても僕と結婚してくださいと。なので、店員さん。108本の薔薇を下さい」  男性は、樹利亜を両手を掴み108本の下さいと申し出る。 けれど、その申し出を樹利亜自体が断る。 「お客様。8本は、店からのサービスさせて頂きますので、最初のご注文通り、100本の赤い薔薇分の代金だけお支払い頂いてもよろしいでしょうか?」  樹利亜は、男性の前に100本の赤い薔薇分の料金だけを提示する。 「!? ダメです。 ちゃんと8本分払います」  男性は、財布から108本の薔薇の代金を取り出す。 「お客様。では、こうしませんか?」  樹利亜は、男性にある一つの提案をする。 「赤い薔薇の花束代は全てお支払いください。そして、これを店からではなく、私個人から奥様へのプレゼントにさせていただきます」  樹利亜は、男性から薔薇の代金を受け取ると同時に、男性の手のひらに、一輪の黒い薔薇を置く。 「黒い薔薇の花言葉は、貴方はあくまで私のもの、決して滅びる事のない愛、永遠の愛です。最初の方の花言葉だけ訊くと、怖いイメージを抱かれるかも知れません。けれど、私は、たくさん種類がある薔薇の中で、一番黒い薔薇が好きなんです。黒い薔薇だけなんです。花言葉で、唯一、愛する人への永遠の愛を誓っているのは、赤い薔薇ではもなく、この黒い薔薇だけなんです」 (堂城君。私も、貴方と永遠の愛を誓いたかった)  男性に、黒い薔薇の花言葉を説明しながら、堂城への叶う事のない想いを抱く。 「……店員さん?」 「はい? あぁ!? 黒い薔薇の返却でしたら、受け付けませんよ? それは、店からではなく、私個人からのプレゼントですから」 「違います」 「でしたら、倉庫から薔薇を取ってまいりますので少々お持ちください」  ☆
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