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入ってはいけない場所
康雄の実家は清流の美しい山のなかにあった。
仕事のために都会に出たので、めったに帰らないが、子どものころから釣りをするのは好きだった。今でも、たまに帰省すると、釣り道具を持って川へ遊びに行く。
あれは二年前、盆に有給をかさねて、少し長めに実家へもどったときのことだ。
ちょうど鮎の解禁中だった。
康雄は朝から釣りに出かけたが、思うように釣れなかった。
川で、たまたま、幼なじみの邦彦に出会った。
「よう。やっちゃん。元気か?」
「ああ。おまえは? くにちゃん」
「見てのとおり元気だよ」
「それにしても、釣れないなぁ」
「ここらは釣り人も多いからなぁ。鮎も警戒してるんだ」
「まあ、そうか。こうして見ても、人が増えた気がするなぁ」
以前は何もない山奥だったが、近くにバイパスが通ったせいか、遠くから来る釣り人が増えたようだ。
すると、小さな声で、邦彦が言った。
「竜の岩淵に行けば、いくらでも釣れるぞ」
康雄はギョッとした。
竜の岩淵。
それは、このへんの者なら知らない人はいない、地元では有名な心霊スポットだ。
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