入ってはいけない場所

2/5
前へ
/5ページ
次へ
なんでも大昔に、そこで竜が退治されたとかで、むやみに近づいてはいけない場所とされている。 その淵で釣りをすると祟られるという言い伝えがあった。 「何を言ってるんだ。あそこは、ダメだろ」 「大丈夫だよ。去年も行ったけど、なんにも起こらなかった。ただの迷信さ」 「ほんとか?」 「これから行ってみよう」 まだ、昼の四時前だ。時間はある。歩いていっても三十分とかからない。 康雄は邦彦に誘われて、竜の岩淵へむかった。 川をさかのぼっていくと、まわりを山並みにかこまれた滝つぼがある。大きな岩がゴロゴロころがっていて、徒歩以外では近よれない。観光客には、まず知られていない穴場だ。 木々がうっそうと茂り、昼でも薄暗い。 滝はさほど大きくないが、水流はあって、そのせいか、妙に冷んやりした。 最初は誰かに見られているような気がして、ビクビクしていた康雄だったが、透きとおるような清水がうずをまく滝つぼに釣り糸をたらすと、まもなく、あたりが来た。バカみたいに次々と釣れる。康雄は我を忘れて釣りまくった。 一時間もたっただろうか。 気がつけば夕方になっていた。 山合いの日没は早い。西の空が赤くなると同時に急速に暗くなる。 名残惜しいが、そろそろ帰らなければと、康雄は思った。 イヤなウワサのある場所だ。たとえ迷信とはいえ、夜になるまでに去りたかった。 「おい。くにちゃん。もう帰ろう。日が暮れる」 ところが、邦彦は笑ってとりあわない。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加