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なんでも大昔に、そこで竜が退治されたとかで、むやみに近づいてはいけない場所とされている。
その淵で釣りをすると祟られるという言い伝えがあった。
「何を言ってるんだ。あそこは、ダメだろ」
「大丈夫だよ。去年も行ったけど、なんにも起こらなかった。ただの迷信さ」
「ほんとか?」
「これから行ってみよう」
まだ、昼の四時前だ。時間はある。歩いていっても三十分とかからない。
康雄は邦彦に誘われて、竜の岩淵へむかった。
川をさかのぼっていくと、まわりを山並みにかこまれた滝つぼがある。大きな岩がゴロゴロころがっていて、徒歩以外では近よれない。観光客には、まず知られていない穴場だ。
木々がうっそうと茂り、昼でも薄暗い。
滝はさほど大きくないが、水流はあって、そのせいか、妙に冷んやりした。
最初は誰かに見られているような気がして、ビクビクしていた康雄だったが、透きとおるような清水がうずをまく滝つぼに釣り糸をたらすと、まもなく、あたりが来た。バカみたいに次々と釣れる。康雄は我を忘れて釣りまくった。
一時間もたっただろうか。
気がつけば夕方になっていた。
山合いの日没は早い。西の空が赤くなると同時に急速に暗くなる。
名残惜しいが、そろそろ帰らなければと、康雄は思った。
イヤなウワサのある場所だ。たとえ迷信とはいえ、夜になるまでに去りたかった。
「おい。くにちゃん。もう帰ろう。日が暮れる」
ところが、邦彦は笑ってとりあわない。
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