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練習試合が終わり、家に帰る者、連れ立って出掛ける者、各々で自由にしていた。
私は先輩達に声を掛けてもらったが、用事があると言って断った。
一人なった私は、周りに人が居ないのを確認すると、彼女を呼んだ。
「秘子さん、いるんでしょう?」
「あら、バレちゃった」
秘子は私の背後に立っていた。
彼女は楽しそうにクスクスと笑っていた。
「折角隠れていたのに、ねえ」
「ねえじゃないです」
私は少し怒って言った。
「剣道は真剣勝負なんです!それをあんなに大きな声で…」
「まあ、ごめんなさい。私ったら貴女の邪魔をしてしまったのね…」
秘子は悲しそうな顔になる。
私は慌てて言った。
「責めてるわけじゃなくて…あの一言で一本取れたし…」
「そう!とても凄かったわ!格好良くて凛々しくて!」
彼女は花が咲いたように目を輝かせた。
「二回目は私が言うよりも速くて!剣道って硬派なスポーツなのね!」
彼女は私を格好良い、素敵だとあまりに褒めるので、私は恥ずかしくなってしまった。
「そんなに褒めても何もあげませんよ!」
「うふふ、たまには褒めさせて?貴女ったら私に会いに来てくれないんですもの」
「そ、それは…」
私は上手く応える事が出来なかった。
彼女のことを気にしていると分かれば、もっと私をからかうに決まっている。
「明日からまた会いにいきますから」
「本当?嬉しいわ!」
秘子は私の手を取った。
冷たい彼女の手が心地良かった。
「秘子さん」
「何かしら?」
「私…」
私が、守るから。
そう言えず、私は俯いた。
「どうしたの?」
彼女は私の顔を覗き込んだ。
私は吹っ切る様に首を振った。
「私は、強くなります」
「…そう。今でも十分強いわ」
「もっともっと、誰にも負けないくらい強くなります」
そう言うと、秘子は少し寂しげな笑顔で言った。
「貴女は強いのに、もっと強くなるのね…」
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