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秘子が走り去ってから数日、旧校舎に足を運んだが、彼女はいなかった。
彼女がどうしていなくなったのか、原因はやはり私の母なのだろうか。
私は思い切って母に尋ねることにした。
「お母さん…」
「どうしたの?元気無いみたいだけど」
母は私の顔を覗き込んだ。
「私は大丈夫…それよりお母さんに聞きたいことがあるんだけど…」
「何?」
正直言って、母に秘子のことを聞くのは怖かった。
もし母が秘子の事を知っていたら、秘子の秘密を知っていたら。
私はどうすればいいんだろう。
恐怖心を無理矢理振り払うと、母に尋ねた。
「あのさ、お母さんに知り合いに琴浦さんっていないかな?」
琴浦、と聞いて母は驚いた様な表情を浮かべた。
「…知らない、そんな人は知らない」
「そう…うん、分かった」
知らない筈はない。
あの顔は…知っている。
母はきっと…いや、絶対に知っている。
だが私には母を問い詰める事が出来なかった。
秘子を知らないと言うのには何か理由がある筈なのだ。
そしてきっとそれは、秘子が逃げ出した事に関係している。
私はその理由を聞く勇気がなかった。
夜になり、お風呂上がりにお茶を飲もうとキッチンへ行くと、父がビールを飲んでいた。
もしかしたら、父は秘子を知っているかも…。
ふとそう思い、私は父に聞いてみた。
「ねえお父さん」
「ん?何だ?」
「お父さんの知り合いに琴浦さんっていない?」
「…??」
父はビールを置いて私を凝視した。
この反応、父も知っているんだ。
「いや…知らないなあ…」
父は目を伏せて言った。
私はそれ以上聞こうとはせず、自分の部屋に戻った。
父も母も何かを隠している。
それは秘子に繋がる何かだ。
私はベッドに横になると、目を閉じて秘子の姿を思い出した。
そしてそのまま眠りへと落ちていった。
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