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旧校舎の入り口はいつもならしっかりと施錠されているのだが、その日に限っては鍵が掛かっておらず、私は幸運に思いながらゆっくりと大きな扉を開いた。
校舎内は夏だというのにひんやりとしており、歩く度に木の床がギシギシと音を立てた。
私は緊張と好奇心がごちゃ混ぜになった気分で探索した。
二階に上がると、一番手前の教室から順に調べて回った。
教室には、使われなくなった机や椅子が乱雑に置かれていた。
黒板には、いつ書かれたか分からない落書きがあった。
私は何か面白いものがないか注意深く調べた。
しかし、特に気になるものはなく、私はがっかりして教室を出た。
最後に一番奥の教室に入った時、窓際に人が立っていた。
私は思わずあっと声を上げ、扉の影に隠れた。
こんな時間に旧校舎にいるなんて、一体何者だろうか。
私はその人影に見つからないようこっそりと扉の影から覗き見た。
長い黒髪に学校の制服、顔は見えなかったがどうやらこの学校の生徒らしい。
私は心臓の鼓動が速まるのを感じながら見つめていた。
長い時間が経ったような気がした時、その生徒はゆっくりとこちらを振り返った。
その顔はとても美しく、私は思わず見惚れてしまった。
赤い唇がそっと開き、鈴の音のような心地よい声が聞こえた。
「そこにいるのは、だあれ?」
私は出ていくかどうか迷った。
「だあれ?」
もう一度彼女が言う。
私はよし、と決意し教室に入った。
「あの、邪魔をしてごめんなさい。私すぐに帰るので…」
私がそう言った時、彼女は大きく目を見開いた。
そして私に近づくと、その白い手で私の頬に触れた。
彼女の手はとても冷たかった。
私が一歩後ずさると、彼女はまた一歩近づき、今度は私の手を取った。
そして要領を得ない私にこう言った。
「私、幽霊さんなのよ」
これが私と琴浦秘子の出会いだった。
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