彼女

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幽霊さん、と聞いて私は一瞬何の事か分からなかった。 しかし彼女がもう一度「幽霊さんよ」と言った時、その言葉の意味を理解し恐怖を覚えた。 そして逃げるために手を振り払おうとしたが、彼女は強い力でそれを抑えた。 「離してください!」 私はそう叫んだ。 しかし彼女は笑いながら益々私の手を握りしめた。 「逃がさないわ!貴女には私が見えているもの!」 「見えません!幽霊なんて見えません!」 私達はそうやって揉み合いになっていたが、徐々に疲れてきて遂にはその場で座り込んでしまった。 すると彼女はクスクスと笑い始めた。 「貴女って面白いわ。私楽しくなっちゃった」 「私はそんなに楽しくありませんが」 私がため息混じりに言うと、彼女は笑顔で私に応えた。 「貴女もきっと楽しくなるわ。私は秘子。琴浦秘子よ。貴女、名前は?」 「直名真実(すぐなまなみ)です」 「そう。真実さん。素敵な名前よ。私、貴女をもっと知りたいわ」 彼女、琴浦秘子は私に近づくと、額に口付けした。 私は吃驚して後ずさった。 「わ、私にはそういう趣味はありません!」 「あら、今のは軽い挨拶よ。初心なのね」 秘子はまたクスクスと笑うと立ち上がった。 「こんなに楽しいのは久しぶりだわ。人と話すのがこんなに楽しいのね。忘れていたわ」 私も立ち上がると、彼女にこう質問した。 「あの、琴浦さんはいつからここに?」 「秘子で良いわ。そうねえ…数えていないから忘れてしまったわ。二十年くらい前かしら」 「秘子さんは、何故幽霊に…?」 「うふふ、中々難しい質問をするのね。そうねえ…」 秘子は口に指を当てて言った。 「それは秘密。私の秘め事よ」
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