1人が本棚に入れています
本棚に追加
幽霊さん、と聞いて私は一瞬何の事か分からなかった。
しかし彼女がもう一度「幽霊さんよ」と言った時、その言葉の意味を理解し恐怖を覚えた。
そして逃げるために手を振り払おうとしたが、彼女は強い力でそれを抑えた。
「離してください!」
私はそう叫んだ。
しかし彼女は笑いながら益々私の手を握りしめた。
「逃がさないわ!貴女には私が見えているもの!」
「見えません!幽霊なんて見えません!」
私達はそうやって揉み合いになっていたが、徐々に疲れてきて遂にはその場で座り込んでしまった。
すると彼女はクスクスと笑い始めた。
「貴女って面白いわ。私楽しくなっちゃった」
「私はそんなに楽しくありませんが」
私がため息混じりに言うと、彼女は笑顔で私に応えた。
「貴女もきっと楽しくなるわ。私は秘子。琴浦秘子よ。貴女、名前は?」
「直名真実(すぐなまなみ)です」
「そう。真実さん。素敵な名前よ。私、貴女をもっと知りたいわ」
彼女、琴浦秘子は私に近づくと、額に口付けした。
私は吃驚して後ずさった。
「わ、私にはそういう趣味はありません!」
「あら、今のは軽い挨拶よ。初心なのね」
秘子はまたクスクスと笑うと立ち上がった。
「こんなに楽しいのは久しぶりだわ。人と話すのがこんなに楽しいのね。忘れていたわ」
私も立ち上がると、彼女にこう質問した。
「あの、琴浦さんはいつからここに?」
「秘子で良いわ。そうねえ…数えていないから忘れてしまったわ。二十年くらい前かしら」
「秘子さんは、何故幽霊に…?」
「うふふ、中々難しい質問をするのね。そうねえ…」
秘子は口に指を当てて言った。
「それは秘密。私の秘め事よ」
最初のコメントを投稿しよう!