彼女

7/21
前へ
/21ページ
次へ
「殺したい…人…」 「ええ、どうしても私が自分で殺したいの」 秘子は笑ったが、その眼は鋭く私を捉えた。 私は急に怖くなった。 目の前にいる幽霊がとても恐ろしい存在に思えたのだ。 そんな私の心を読んだように彼女は言った。 「私が怖い?恐ろしい?」 私はその問いに応えられずにいた。 暫くの沈黙。 ふと、秘子の眼差しが穏やかになり、私の手を握った。 「怖がらせてしまってごめんなさい。今の話は聞かなかったことにしてちょうだい」 そう言った彼女の表情は暗かった。 「そんなの無理です…」 私は彼女の手を握り返して言った。 「もし秘子さんに殺したい人がいて、実際に殺そうとしたら、私が止めます。絶対に」 絶対に、と強く言うと、秘子は微笑んで言った。 「じゃあ約束しましょう。貴女は私を止める。私は貴女を守る。良いかしら?」 「守る?何から私を守るんですか?」 彼女は優しい笑顔で言った。 「それも秘密。貴女には言わないわ」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加