彼女

8/21
前へ
/21ページ
次へ
結局その日は何も教えてもらえず、もやもやとした気持ちで家に帰ったのであった。 家でも彼女の言葉を何度も思い返してはうーんと唸る私に、母は入浴剤を渡した。 「何があったか知らないけど、悩むならお風呂で好きなだけ悩みなさい」 母の言葉に従って私は風呂に入る事にした。 頭と体を洗うと、湯船に入浴剤を入れる。 効能は疲労回復らしい。 温かい湯に浸かりながら私はまた悩んだ。 私を何から守ってくれるのか…秘子が殺したいという人物は誰なのか…私に出来ることは何だろうか…。 色々な考えが浮かんでは消えていく。 頭がふわふわとし、思考能力が鈍っていく。 気付けば私はのぼせる寸前だった。 風呂から上がって部屋着を着ると、冷房の効いた部屋で冷たい麦茶を飲んだ。 明日も剣道部の練習がある。 今週には練習試合がある。 秘子の事が気になるけれど、部活も大事だ。 私はベッドに潜り込むと、静かに目を閉じ眠った。 …。 …ねえ、約束よ。 「約束…?」 私と貴女、二人だけの秘密の約束。 「何?何のこと?」 ええ、分かったわ。 私達だけの秘密ね。 「どういうこと?分からないよ…」 さようなら。 さようなら。 「行かないで!」 自分の声に驚いて目が覚めた。 時間を確かめると、午前二時過ぎであった。 部屋から出ると、両親を起こさないように静かに歩いて台所へ行った。 そして水を飲んで気分を落ち着かせた。 夢を見た、気がする。 記憶が曖昧でどんな内容であったかは思い出せない。 ただ、秘子が出てきたような気がするのだ。 そう、秘子と誰か…顔が分からない。 きっと秘子の事を考えすぎて疲れているのだ。 私はそう言い聞かせて部屋に戻ると、ぎゅっと目を瞑って何も考えないようにしてもう一度眠った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加