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「何を言っているんだ、彩香。まさか……またお前の悪いクセでも出たのか?」 「ふっふっふー話を聞いてない、直哉が悪いんだよ。適当に相槌なんかしてくれちゃってさ」 むぅ、バレていたか。 「詳しく聞きたい?」 「当然だ。こんな朝っぱらから、神隠しだの鬼など、非現実的な単語を無理やり聞かされた俺には聞く権利がある!」 「あれ、意外。そういうキーワードはちゃんと聞いてたんだ」 第一、俺には何よりも優先すべき部活があるんだ。そんな何の意味もないことに時間を費やしたくない。 そんなことをするなら、素振り1000本でもやった方がよっぽどいい。 昔――小学生ぐらいのときに行った数々の調査で酷い目あったことを俺は一生忘れない。 「どうせ、いつもみたいにー俺には部活がーとか言って断る気なんでしょ?」 どうやら幼馴染には俺が思っていることが筒抜けらしい。何でだろう。 「ただただ筋トレを続けるのも青春を無駄にしているって考えたことないの?」 「そんなことはない。俺の筋トレにはちゃんと意味がある。というか仮に調査するにしても、先輩に確認をとらないと……」 「残念でしたー小林先輩からはもう了承は得てるんだよねーまぁ無理強いするほど、あたしも鬼じゃないし。お昼ぐらいにもう一回確認するからさ、それまで考えておいてね」 そう言い終えるや否や、彩香は突然走り出した。 「おい、待てよ彩香! 了承を得たってどういう意味だ! そもそも俺は調査するなんて一言も……」 早くしないと遅刻するわよーと、彩香の声が遠くから聞こえる。 「ん?遅刻?」 腕時計を見ると、長針がありえない時間を指している。 「ヤバイ!遅刻しちまう!」 思っていたよりも、話し込んでいたらしい。 調査云々の話よりも、俺の頭の中は全力疾走すれば遅刻しない済む、という考えに埋め尽くされた。
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