序の章

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乱れた呼吸を整え、頭上を見上げると、朧月が俺をぼんやりと照らしていた。 川の向こうで光ってる街路灯もなんだか頼りなく感じる。どうやら無心で走っていたらしい。 いつも折り返しの目印にしている、河川敷の橋がずいぶんと遠くにあった。 周りを見渡すと、誰もいない。聞こえるのはすぐ近くに流れている川の音だけだった。 今日のトレーニングはここまでにしようと振り返ろうとした瞬間、ヒュンと音が耳元で聞こえた。 「……痛っ……!?」 それが何かと認識する前に、俺の背中に熱が宿った。 痛みとわけが分からない状態に戸惑い、俺はそのまま転倒してしまう。 身体や膝に新たな痛みがくるが、背中の痛みと比べると、比較するまでもない。 裂けるような激しい痛みが続く。なぜ、どうして、こんなところで俺が? 状況の悪化を防ぐため、顔を動かし自分がいた位置を確かめる。 「……っ!」 かろうじてそこに、人が立っているのが見えた。 ガタン、ゴトン――ガタン、ゴトン―― 頭上を走り抜ける電車の灯が人影を一瞬だけ照らす。 しかし、そこに立っている人影が誰だか判断する前に、俺はその人影が持っている物に目が釘付けになってしまった。 それは、この場には全く相応しくない――赤い刀身の刀だった。 察するにこの人影が俺を切ったのか? 「……哉っ!……り、して……!」 誰かが、俺の名前を叫んでいる。 どうやら、人影は俺の知り合いのようだ。 「おいおい、もっと大声で呼んでくれよ。全然聞こえないだろう?」 自分を切ったかもしれない相手に向かって、言うが声は届いていないのか、人影は動きもしない。 「……っ!……で!」 わかりやすく返事したつもりだったが、人影に俺の言葉は通じなかったみたいだ。 怒りよりも、わけがわからない状況に混乱しているのがわかる。 痛い。一体誰がこんなことを? 熱い。どうして俺が狙われた? 色々と考えが思い浮かぶ。状況を確認しなければいけない。 だけど、身体が動かない。全身から力が抜けていく。 不思議とあれほど激しかった背中の痛みが消え失せ、突然闇が訪れた。image=512293345.jpg
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