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「彩香、痛い……」
「フンだ。自業自得でしょ」
そうやって、怒りを露にするのは俺の幼馴染――泉彩香――だ。
幼馴染といっても俺と彩香の家は別に近くにあるわけでもない。
商店街の向かい側に家があって、通学路が途中で同じになるから、たまたま一緒に登校しているだけだ。
たまたまだぞ。
特に親しい間柄でもないと思っているのだが、なぜか彩香とはいつも朝が一緒になる。
学校指定のセーラー服に、これまたお決まりの指定鞄。おまけに黒のショートカットと模範生の体言のようだ。
今時ルーズソックスも履かず、コギャルメイクもしていない女子高生なんて珍しいと思う。
しかし、その手にはインスタントカメラが収まっている。
前に欲しいカメラのメーカーやレンズなどのことについて、勝手に話してくれたが全く覚えていない。
覚える気がないからだ。
彩香の趣味は写真を撮ることだ。風景や動物はもちろん、なぜか俺が買い食いする物まで収めている。
昔からの付き合いだが、そういうところはよくわからない。
「どうせ、いつもの今日の帰りに何を食べようかなーとか考えていたんでしょ?」
「くっ、なぜバレた?」
俺には彩香の考えがわからないのに、逆に彩香は俺の考えていることがわかるようだ。なぜだ。
「バレバレよ、アンタの考えていることなんて、いっつも一緒なんだから」
「そうか、わかった。それじゃあ次からはバレないようにポーカーフェイスを鍛えておく」
「はいはい、言ってなさ……あっ、いいアングルみっけ!」
そういうと彩香は突然走り出し、道の脇を歩いている野良猫へ近づいていった。
「こにゃやろー、いい顔してるねー」
警戒されないよう、絶妙な距離からパシャパシャとその姿を撮っていく。
「お前も相変わらずだよ、彩香……」
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