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張り詰めた空気が流れ、全員口を閉ざしたまま時間だけが過ぎて行く。
外がすっかり暗くなった頃、病室から出てきた主治医が手招きをした。
とっくに面会時間を過ぎているも関わらず、中に入ることを特別に許可してくれたのだ。
見慣れた個室のベッドの上。
そこに仰向けの状態で寝かされた沙耶は、懸命な処置により危険な状況を脱し意識を取り戻していて、ボンヤリ天井を見つめていた。
『沙耶!』
一目散に駆け寄った恭弥の声に反応した沙耶は、顔をゆっくり横に向け口元を綻ばせる。
『良かった…私、生きてる』
久しぶりに聞いた沙耶の声で紡がれた言葉は、紛れもない本音。
体中に色んな管を繋がれ、顔には酸素マスクを着けていた跡がくっきりと残っている。
さっきまで生死の境を彷徨っていた沙耶は、確かに存在する自身の小さな体を抱きしめながら生きている喜びを噛み締めていた。
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