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『心配掛けちゃってごめんね。いつもの発作だからもう大丈夫だよ』
本当は死んでもおかしくない状況だったと沙耶も気付いていたはずなのに。
俺達が察しないように笑って隠す癖が染みついているのか、明るく振る舞っていた。
病室に入る前、須田さんから頭を下げられて頼まれたことが二つある。
一つ目は、沙耶の命に期限があるという事実については聞かなかったことにしてほしいということ。
もう一つは、俺達に知られたくないと思う沙耶の気持ちを汲み取ってやってほしいということ。
容態が急変したことにより最後になるかもしれないからと悩んだ末に打ち明けてしまったものの、須田さんとしては出来る限り沙耶の望みを叶えてやりたいらしい。
知っているのに知らないフリをする。
それは、17歳の自分にとって残酷すぎる要求だった。
もう何も分からないほど子供じゃない。
でも大人というにはまだ不完全で、沙耶に忍び寄る“死”を受け入れることができなかったんだと思う。
体がその場に留まることを拒み、気付けば凄い勢いで病室から飛び出していた。
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