愛、散る【暁side】

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その日を境に、空き時間ができても病院に行くのを避けるようになった。 須田さんのように冷静でいるのも、沙耶のように明るく振る舞うのも俺には無理だと思ったから。 一方で、恭弥は学校よりバイトより沙耶に会いに行くことを最優先した。 沙耶が食べたいって言った料理を作ってコッソリ差し入れしたり、雑誌やDVDを大量に買って持って行ったり。 『沙耶喜んでたよ。俺の料理も美味しいってパクパク食べてた』 施設に帰って来ると、そうやって俺に逐一報告してきたけど正直あんまり聞きたくなかった。 寧ろ、どうして恭弥が平気でいられるのか分からない。 『アキもたまには沙耶に会いに行ってあげなよ』 『…俺は行かない』 死イコール永遠の別れ。 そう思えば思うほど足が竦んで動けなくなる俺は、なんて弱い人間だろう。 必死に生きようとしている沙耶に会いに行く資格もない。
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