4294人が本棚に入れています
本棚に追加
『そういえば聞いたよ。沙耶のこと、こっ酷くフッたらしいね』
『……』
『あ、責めてるわけじゃなくてさ。沙耶が言ってたから。病気だからって色んなこと諦めるのは嫌。行きたいとこに行って食べたいもの食べて恋愛もしたい。とにかく普通の女の子でいたいんだって』
明日の保証がない中で我武者羅に欲しいものを得ようとする沙耶と、当たり前に明日が来たって何も得ようとせず逃げてばかりいる俺。
なんで沙耶なんだと聞いたところで誰も答えてはくれない。
『本当に沙耶と付き合う気ないの?』
『ない』
『即答だね。じゃあ俺が沙耶と付き合ってもいいってこと?』
『…それ、どういう意味?』
『もちろん同情とかじゃないよ。ちゃんと女の子として沙耶が好きだから相手が俺でもいいなら普通に恋愛させてあげたいって思った』
真っ直ぐな瞳に迷いは感じられない。
沙耶が俺に想いを寄せていたように、恭弥もまた幼い頃から沙耶に片想いしていたことをこの日初めて知った。
ーーもし沙耶に告白されたらどうする?
あの時の質問はカマをかけられていたらしい。
人をよく見ている恭弥は、沙耶の気持ちにも気付いていた。
恋とか愛を知ることを恐れているのは俺一人だけ。
恭弥も沙耶も、失う恐怖より自分の気持ちに正直に生きていた。
最初のコメントを投稿しよう!